一億光年の恋 01話






 夜までの撮影を終えてMANKAI寮に帰った天馬を迎えたのは、緊迫した空気だった。
 談話室に入れば慌ただしい様子とともに、あちこちで声が飛び交う。一体どうしたのかと問えば、一成が帰宅しないだけでなく連絡が取れないのだと言う。
 ドキリ、と心臓の音が鳴る。それから血の気が引いていくのは、彼の現在の状況をよくわかっているからだ。なるべく一人で出かけるなと約束していたし、たとえ出かけるとしても夜遅くならないよう気をつけているはずだった。それなのに、一成が帰ってこない。

「カズくん……」

 ソファに座った椋が泣き出しそうな表情で言葉を落とす。ヒツジのストラップのついたスマートフォンを、両手で握りしめていた。
 隣に座る九門が「カズさん、大丈夫だよね!?」と十座へすがりつくように言えば、十座が「ああ、最近は物騒な話も聞かない。大丈夫だ」と真摯な顔でうなずいた。

「そーッスよ! ほら、警察の人の見回りも強化されてるみたいだし!」
「ああ、そうだな。現に、通り魔事件の話も最近だと聞かないだろう?」

 太一が二人を元気づけるように明るく声を掛ければ、臣も穏やかにあとを引き取った。椋と九門が、心細そうな表情ながらもなんとかうなずく。
 その言葉を聞く天馬も、どうにか安心材料を得ようと太一と臣の言葉を反すうする。

 通り魔事件。それは、ここ二ヶ月ほど天鵞絨町界隈で起こっている事件だ。
 夜道を歩いていると無差別に刃物で切りかかられるというもので、狙われるのは女性から年若い男性や壮年のサラリーマンなど多岐に渡る。幸い、今のところ死者はいないものの、次第に負う傷が深くなっていることから凶悪化が懸念されていた。しかし、最近では以前ほどの頻度で事件は起きていない。

 犯行を止めたのならそれでいい。警察の捜査が順調に進んでいて思いとどまっているからでもいい。だけれど、もしかしたら。誰もそれを口にはしないけれど、一つの可能性は全員が頭に浮かべていた。

 最近事件が起きないのは、犯人が警戒しているからではないか。
 後ろから襲われて、犯人の姿を見たものがいないというのが特徴の通り魔事件だった。しかし、天馬たちは知っている。二週間ほど前の事件で初めて、犯人の姿を目撃した人間がいること。それが、一成であることを。

 一成は「びっくりだよねん」とぎこちなく笑っていたけれど、深刻な事態であることくらい誰もが理解していた。初めて現れた有力な目撃者であることから、警察にも何度か呼ばれて事情を説明していたし、何よりも万が一のことを考えて寮の周辺を警官が見回ることになったのだ。
 今まで尻尾見せなかった犯人の姿を目撃して、あまつさえ声まで聞いている。もしかしたら、目撃者である一成に何らかの接触を試みるかもしれないし、場合によっては危害を加えられる可能性もある。
 見回りを担当するという、体格の良い警官はそう言っていた。まだ年若く、はつらつとした印象の短髪の警官は、そうならないように寮をきちんと見張っていますので、と告げたのだ。
 そんな状況であることを、一成が理解していないわけがない。だから、こんな風に一切の連絡もなく、夜遅くまで帰ってこないなんて、異常事態に違いなかった。だからこそ、カンパニーメンバーが全員こんな風に慌ただしく情報を集めている。

「LIMEにも何にも連絡ないし、ポンコツのところは何か来てないの」

 立ち尽くしたままの天馬に気づいて声を掛けたのは、椋の向かいに座っていた幸だ。落ち着いた声にも似て、だけれど上ずった調子で問いかける。
 談話室のドアの前で固まっていた天馬は、そこでようやく思い出したように鞄を探った。焦っているせいか、中々見つからない。一成につけられたストラップが手に触れて、そこからスマートフォンを手繰り寄せる。画面を起動させた。
 普段、天馬はあまりスマートフォンを頻繁に見ない。加えて、今日はアクシデント続きの撮影にすっかり疲れ果てていたので、帰りの車でさえもスマートフォンをチェックしていなかった。ぐったりとしたまま、車のシートに体を預けているしかできなかったのだ。

「……一成から着信がある」

 スマートフォンを見た天馬から、呆然としたように言葉が落ちる。ざわりと周囲の空気が動く。「カズくん!?」「何時に電話だ?」という声に、天馬は震える指でスマートフォンを操作した。

 画面にはLIMEの新着メッセージの通知以外に、一成からの不在着信が表示されている。時刻は二十時六分。一時間ほど前の時刻だ。その時間なら、撮影が終わって楽屋に戻ったころだった。マナーモードにしたまま鞄に放り込んでいるから、まったく気づかなかった。
 どうして電話をかけたのかはわからない。普段なら大して気にしないかもしれない。だけれど、今この状況での着信だ。単なる雑談ではないだろう。何か重大な用事があったとしか思えない。それなのに、オレは電話に出てやれなかった。
 天馬の心臓がドクドクと音を立てている。嫌な汗が流れる。頭が真っ白になっていくような、思考が全て奪われてゆくような感覚。オレは何かひどい間違いを犯してしまったのではないか。そんな感覚が全身を駆け巡っていた。
 それでも天馬は、どうにか着信時刻を告げた。折り返し電話を掛けるけれど、呼び出し音ではなくアナウンスが流れるだけだった。厳しい顔の左京がつぶやく。

「用事は済んだから帰宅するって連絡以降、行方が分かってねえ。少なくとも、一時間前に皇に電話があったことがわかっただけでも収穫だ」
「悪い、左京さん。本当なら誰か寮に残ってる予定だったけど、急きょ全員出払っちまったんだ。まだ明るい時間だったし、行き先が大学なら問題ねぇと思って――」

 万里の言葉に、左京は「お前が謝ることじゃない」と首を振る。
 確かに一成を一人にしないようにとはしていた。しかし、たまたま全員に予定が入ってしまった結果、一成が一人になる時間ができたのだ。
 その状況で外に行く用事ができたとして、一成の性格だ。わざわざ誰かを呼んでついてきてもらうなんて選択をするわけがなかった。まだ日も高いし、行き先もよく知った場所だし、すぐ帰ってくれば大丈夫だと判断してグループトークにそうメッセージを残した。それが、十五時を少し過ぎた時刻だ。

「教授に捕まって遅くなったって監督が電話もらってたけど、一成さん全然おかしいところとかはなかったって。駅まで誰か迎えに行ってもらうって言ったら申し訳なさそうにしてたみてえだけど、寄り道しないで帰るって言ってた」

 淡々としたようにも見える表情で、莇が言う。しかし、声の調子は硬くいつもの様子とは違っていた。恐らくそれが、一成からの最後の連絡だった。天馬に着信があるまでは。

「監督さんもそう言ってたな。あの時点で何か別の用事があれば三好のことだ、そう言っただろう。ましてやどこかへ出掛けるような素振りもなかったらしい。詳しい話は帰ってからになるが」

 今ここにいない監督は、一成の実家に赴いているらしい。現在の状況を双方で確認するためであり、行方につながる情報を集めるという意味もあるのだろう。

「昔の知り合いと会ってるって線もあるからな。その辺については皆木中心に連絡を取ってもらってるが、結果は芳しくない」
「そうっすね。高校時代の知り合いとかに電話しても、誰も三好さんと会ってないみたいで」

 談話室の片隅に集まっていた春組の一角から声が上がる。綴の声に呼応するように続いたのは至だった。

「一応、SNSで情報収集してるけど。特にめぼしい情報はないっぽいね」
「おおう、カズは目立つヨ、バンバン目撃情報が集まっておかしくはないネ……」
「一成のSNS関係見てるけど誰も一成の話出してない。この辺とは一緒にいないんじゃない」

 至の言葉に、悲しそうにシトロンが答える。確かに目立つ人間ではあるので、何かあればすぐに話題になりそうなのに一切そんな話はないらしい。
 二人の言葉をまるで意に介していない調子で言ったのは真澄だ。一成に関係のありそうなフォロワーをチェックしたけれど、一緒にいそうな投稿もないと言う。

「商店街のみんなにも話はしてあるヨ。だから、一成を見つけたらすぐ連絡してもらえるはずネ!」

 シトロンが力強く言えば、スマートフォンを握り締めていた咲也が顔を上げる。「そうですね!」と大きくうなずく。

「オレも、客演先の皆さんにお願いしましたし、一成さんはとても目を引く人だからきっとすぐに行方が分かると思います!」

 心からといった言葉は、紛れもない咲也の祈りだ。この時間まで連絡が取れていないこと。その事実を痛いほどに知っていて、だけれどそれでも祈っている。心から、何よりも真っ直ぐと願いを紡ぐ。

「――情報収集は色々してるから、そろそろどこかに引っかかるんじゃないかな」

 パソコンを操っていた千景が落ち着いた声でつぶやく。何でもない顔で「防犯カメラの映像を辿れば、たぶん足取りはつかめると思うよ」と続けた。至が「さすがはチート先輩。ありがたいですけど」と言えば、千景が「これくらい当然だろ」と答えていた。

 それぞれが、できることをしながら一成の行方を追っている。その事実を噛み締めた天馬は、ぎゅっとスマートフォンを握り締めた。
 みんなができることをやっているのに、オレは一体何をしている。一成からの電話に出ることもできず、今もここで立ち尽くしているだけだ。何が夏組リーダーだ。こんな状況で、何もできずにいるのに。
 オレにできることはないか、と口を開きかけた。しかしそこで、玄関のほうから声がした。誰かが帰ってきたようだ。もしかして一成だろうか、と振り返れば三角が飛び込んできた。

「てんま!?」
「三角、お前今までどこに――」
「かずのこと、探しに行ってた! ねえ、オレ全然大丈夫だよ。だから、もう一回行ってくる!」
「ダメだ。斑鳩、お前今まで飲まず食わずだっただろう。何か腹に入れてからにしろ」

 続いて入ってきた丞がそう言えば、臣がすぐに動いた。冷蔵庫からスポーツドリンクや作っておいたのであろうおにぎりを取り出して、三角に渡している。

「栄養補給後は、再び捜索に戻る。御影も問題はないか」
「ない。マシュマロ食べれば大丈夫」

 ガイと密がそう言って、スポーツドリンクやチョコレートにマシュマロ、シリアルバーを口にしている。丞も同様で、どうやら彼らはずっと外で一成の行方を探していたらしい。

「他に捜索に加われるやつはいるか。いるなら、人数を増やしたい。俺も行く。おい、茅ヶ崎。ここはお前に任せるぞ。監督さんからの連絡も来るだろうし、情報拠点ならできるだろ」
「体力勝負は無理だけどそういうのは得意分野です」

 冗談にも聞こえる口調ながら、至の目は真剣だった。左京がそれにうなずき返せば、「ボクも行きます!」という声が飛び込んだ。
 椋の声で、切羽詰まったような響きをしていた。九門や幸も同じように答えようとしたのだろう。鬼気迫る顔で口を開きかけるけれど、その前に左京がぴしゃりと告げた。

「ダメだ。向坂と兵頭弟、瑠璃川。お前らはずっと走り通しで体力がほとんど残ってねえ。それに、この時間帯にお前らが外を歩けば、補導される可能性が高い。今そこに時間を取られるわけにはいかねえんだ。茅ヶ崎のサポートをしてくれ」

 きっぱりとした左京の言葉に、椋や九門、幸が納得できないといった表情を浮かべる。しかし、そこで至が「サポートよろ」と声を掛けるし、咲也やシトロンが「俺ちょっとわからないことがあるから教えてくれる?」「ワタシたちだけじゃでんでんまいネ! 助けてほしいヨ!」と続く。
 さらに、てんてこ舞いな、と突っ込んだ綴もうなずき、千景も「人が多いと助かるな」と言って、真澄までも人手が足りないと言葉を添えた。

「今日は少し頑張りすぎたからね。カズも、みんなが倒れてしまったら帰ってきた時に心配すると思うよ」

 やさしい声で言ったのは東だった。椋の隣に腰掛けると、スマートフォンを握りしめすぎて白くなった手にそっと自分の手を重ねる。心からの憂いを含んだまなざしだった。
 続いたのは紬だ。落ち着いた調子で声をかける。

「うん。心配なのもよくわかるし、じっとなんてしてられないよね。だけど、ちゃんと休むことも大事だと思うな。疲れた顔をしてたら、カズくんもびっくりしちゃうしね。今はきちんと休もうか」
「ああ、そうだとも。ずっと街中を走り回っていたと聞いたよ。気持ちはわかるけれど、今はその体を休めて、万全の調子で一成くんを迎えようじゃないか!」

 紬に続いて、大袈裟とも言える身振りで言葉を発したのは誉だ。三人の大人たちは、年若い夏組の彼らに心からの言葉をかける。それを理解できない三人ではなかった。
 一成からの連絡がない時点で街中へ飛び出して行ったのは事実だし、体力を使い果たして倒れ込んでいたのも本当だ。それをカンパニーのメンバーは知っているからこその言葉だし、心からのやさしさなのだと理解してしいる。だから、頑なに全てを跳ね返すことなどできなかった。
 こくりとうなずいた三人の様子に、一瞬だけ左京がほっとしたように息を吐く。それ見た天馬は理解する。
 椋や九門、幸を行かせなかったのは恐らく、彼らの様子が目に見えて不安定だったからだ。体力がないことも、補導される可能性も嘘ではない。だけれど一番はきっと、すぐにでも恐慌を来たしそうな三人を捜索に加えさせることはできないと判断したからだ。そして、春組も冬組もすぐにそれを理解したから、必要な言葉をかけた。
 天馬はぐっとスマートフォンを握りしめた。左京の憂いを感じ取ったからでもあるし、なおのこと自分への憤りが収まらない。それなら、オレは今何をすればいい。何ができる。

「――目途がついたら、卯木や皆木も捜索に加わってくれ。伏見、行くぞ」

 臣も捜索に加わることになったようで、丞やガイ、密、おにぎりをお腹に収めた三角とともに、左京が談話室から出て行こうとする。天馬はとっさにその腕を取った。

「オレも行く」

 ぱちり、と左京がまばたきをした。意外そうな顔ではなかった。ただ、何かを言いあぐねているような、言葉を選んでいるような表情。口を開く前に天馬は言葉を重ねた。

「一成は夏組の一員で、オレたちの大事な仲間だ。だからオレが行く。あいつらが行けないなら、オレがその分走る」

 椋も九門も幸も行けないと言うなら、その分は自分が背負って走ればいい。何もできなかった自分にできることなんて、もうこれくらいしか思いつかなかったのだ。
 一成を探しに走りたい。どこにいるかわからない大事な人のところまで走っていきたい。きっとそれは、全員共通の願いなのだから、それならオレがみんなを連れていく。

「――てんま」

 三角の言葉がそっと落ちる。天馬はぐっと手に力を込めて、不在着信を残したスマートフォンを強く握る。
 全員連れて走っていく。その気持ちは本当だ。だけれど、恐らくもう一つは、たった一人で三角を行かせたくはなかった。暗い夜の中、一成を探して走るのなら、せめて隣にいてやらなくてはいけない気がしたのだ。
 真剣なまなざしで左京を見つめる。長い時間のようだった。だけれど、恐らくわずかな沈黙だったのだろう。左京はゆっくり口を開くと「わかった」と告げる。

「だが、絶対に斑鳩と離れるな。皇と斑鳩は必ず一緒にいろ。いいな」

 念を押すように強く言われて、二人はこくりとうなずいた。それを確認すると、左京が「行ってくる」と扉を出て行く。天馬もそのあとを追い、MANKAI寮の玄関を出た。









 天鵞絨駅から寮までは徹底的に捜索した。この辺りにいれば、確実に見つけられるはずだというのが、これまでの見解だった。だから、もう少し捜索範囲を広げてみると言う。
 天馬がうなずけば、三角は「てんま、こっちだよ!」と走り出す。どこへ向かうのかと思えば、商店街の路地裏に飛び込んで細い道を辿る。行き着いたのはブロック塀の行き止まりだ。

「ネコさんたちに、かずのこと教えて~って頼んでるんだ。この辺りだと全然見つからないから、もっと遠くのネコさんにも聞いてくれる?って頼んだから、そろそろお返事が来るころ!」

 いつもなら「何を言ってるんだ」と言う場面だ。だけれど、今ここで三角がそんな冗談を言うとは思えなかったし、何より三角の顔は怖いくらいに真剣だった。
 それに、外灯に照らされた路地裏には三角の言う通り、続々とネコが集まってきていた。茶トラにサビ猫、グレー、サバトラ、白地に黒い模様……。示し合わせたようにやって来るネコを見れば、三角の言葉を嘘だと笑い飛ばすことなどできなかった。

「ありがと~。そっか、今日はいつもよりお星さまがざわざわしてるんだねぇ」

 足元にすり寄ってきたサバトラのネコを抱えた三角が、そんなことを言って空を見上げる。つられて天馬も空を見た。もっとも、路地裏から見上げる空はほとんど屋根に遮られていて、申し訳程度に見える夜空はのっぺりとしているだけだ。
 ただ、星という言葉に思い出す記憶があった。こんな風に夜空を眺めていた時、交わした約束があったのだ。夏の大三角形を夏組みんなで眺めて花火をした。そんな時に、そういえば、という顔で一成が言ったのだ。

(秋くらいには大きな彗星が見えるんだよん。みんなで見よーね! 秋の天体観測もいいよねん!)

 秋もみんなと星見られるのめっちゃ楽しみ!と笑っていた一成は、確かもっと詳しいことを言っていたはずだ。
 彗星自体はすでに地球に近づいていて望遠鏡で観測されている。ただ、肉眼で見えるようになるのは九月頃だという話だった。今日はすでに九月の中旬だ。すでに彗星は見えるのだろうか。それともまだだろうか。あれはいつ頃だと言っていただろうか。天馬は心の中で一成へ言う。

 なあ、一成。みんなで彗星を見ようって言ってただろ。お前がいなかったらみんなにならないだろ。どこにいるんだ、さっさと出てこい。みんなで彗星を見ようって言ったのはお前じゃないか。

 いくら心で呼びかけたところで、意味はないとわかっていた。それでも、天馬は言わずにいられなかった。
 一成。呼べばいつでも答えてくれた。いつだって近くにいて、隣で笑ってくれるのだと信じていた。そうではない現実が耐えられなくて、天馬はただ心で名前を呼ぶしかできない。

「――うん、そっか、ありがと~! ねえ、てんま、あっちの公園行ってみよ!」

 暗闇を固めたようなクロネコに手を振った三角が、くるりと振り返って天馬に告げた。あっちの公園、というのは天鵞絨駅から二駅ほど離れた先にある公園だった。
 特に一成と縁があるような場所でもないし、ここからは距離もある。捜索範囲外であることは間違いない。

「かずみたいな人を見たって、さっきの子が言ってた!」

 ネコの目撃情報だなんて、馬鹿みたいな話だと天馬は思う。だけれど、何の手がかりもない現状で、真剣な顔で三角が言うのだ。
 なかったことにもしたくなかったし、ようやく掴んだ手がかりかもしれない。それなら、行ってみるだけ行ってみたほうがいい。そう判断した天馬は、こくりとうなずいた。

「わかった。行くぞ」

 天馬はグループトークに行き先を投稿してから、三角とともに夜の街を駆ける。