終演までは、どうかワルツを。 08話
<from SPRING TROUPE>
アイマスクが外されると、談話室だった。
部屋中にサンカクの装飾と、ヒマワリをモチーフにした飾りがほどこされていて、全力のパーティー感を演出している。キッチンからはスパイスの匂いがした。
ソファに座らされた天馬が、玄関から大した距離でもないのにどうしてアイマスクをされたのか、といぶかしんでいると、横から声をかけられた。
「天馬くん! 誕生日おめでとう!」
視線を向ければ、満面の笑みの咲也が立っている。
出会ったころから変わらない、心の奥まで真っ直ぐと差し込む光のような笑顔で、ヒマワリを差し出す。
「天馬くんにぴったりの花だよね。いつでも上を向いていて、天馬くんを見る度オレも頑張らなきゃって思うんだ」
そう言う咲也の努力を天馬は知っているし、着実に力をつけていることは彼の出演作を見続けているゆえによくわかっていた。
実際、咲也はいくつもの舞台で評価を得ているし、最近ではテレビの出演も果たしている。ヒマワリを受け取った天馬は、真っ直ぐと咲也へ答えた。
「咲也の活躍ならオレも見てる。朝ドラの弟役、好評みたいだな」
「ありがとう! うん、とっても勉強になる現場だし、みなさんよくしてくれるんだ」
咲也は現在放映中の、朝の連続ドラマで主人公の弟を演じている。
少し気弱だけれど家族思いの少年で、姉の一大事には決然として立ち向かう様子が評判となって出番が増えている、というのは天馬も耳にしていた。
「テンマ、誕生日おめでとうダヨー!」
咲也の後ろから現れたのはシトロンだった。手に持ったヒマワリを掲げて「MANKAIカンパニーの太陽に、ダヨ!」と笑った。
礼を言って受け取りつつ、「よく時間あったな」とつぶやく。
シトロンは舞台に立つ以外ではザフラの文化大使としてしょっちゅう日本全国を飛び回っているのだ。
一応、MANKAI寮にまだ部屋はあるけれど、別宅として使っているアパートで過ごすことが多いと聞いていた。シトロンは面白そうな笑顔で首を振る。
「ノーノー! MANKAIカンパニーの一大事、絶対帰ってくるに決まってるヨ!」
「別に事件じゃないッスけどね……天馬、誕生日おめでとう」
ぼそりとつぶやいたのは、もちろん綴だった。
劇作家として多くの締め切りを抱えている綴だけれど、今回はそう殺人的なスケジュールではなかったのかもしれない。健康的な顔色をしている。
綴は、はにかむような笑みでヒマワリを差し出した。
それを受け取る天馬に向けて、「まあ、よく時間あったなっていうのは、そのまま天馬に返したいところだけど」と続ける。天馬の多忙ぶりは、テレビで顔を見ない日はない、という事実で理解していた。
「天馬、誕生日おめ。久しぶり――って言いたいところだけど、全然久しぶり感がない。むしろ毎日見てる」
ヒマワリを持った至がやって来てそう言う。至の花を受け取った天馬は思わず苦笑を浮かべた。
確かに、天馬の顔なら日本にいれば毎日絶対どこかで目にするだろう。
加えて、今も変わらず兼業役者を続けている至は、どうやら広報関係の業務にも携わっているようで業務的に天馬の顔を見る機会が増えているらしい。
「最近では海外でも天馬をよく見るようになったよ。――天馬、誕生日おめでとう」
そう言ってヒマワリを差し出すのは千景だった。
海外出張の多い千景曰く、国外でも天馬の名前や顔を見る機会が増えたらしいので、海外進出は順調に進んでいるということだろう。
千景による語学特訓はかなり役に立った、と言えば千景は一瞬黙ってから「それは光栄だ」と笑った。
「天馬」
千景のヒマワリを受け取るのと同時に名前を呼ばれて、さらにヒマワリが突き出される。その手を辿れば、真澄がいつものクールなまなざしで天馬を見つめていた。
「誕生日おめでとう。……まあ、いつでも帰ってくれば」
それだけ告げると天馬にヒマワリを押しつけて、キッチンへ去っていく。カレー作りを手伝う気らしい。10年経ってもブレない真澄に感動のような気持ちさえ覚えたけれど、同時に理解もしている。
真澄の言葉の意味。
大学卒業後も一流企業に勤めながらMANKAIカンパニーに所属している真澄は、現在も寮に起居している。彼にとって、「家」とはMANKAI寮だし、そこには天馬も存在している、ということなのだ。
だから、「いつでも帰ってくればいい」と彼は言う。それはわかりにくいけれど確かな、真澄からの親愛だろう。
「えっと、それじゃ天馬くん。いいかな?」
真澄からのヒマワリを受け取ったことを確認した咲也が、遠慮がちに声をかける。何がだ?という顔をすると、咲也がはつらつと笑った。
「春組からは、エッグハントゲームです! 談話室に、飾りのついた卵を三つ隠したよ。時間内に全部の卵を見つけてね」
ニコニコと咲也が言えば、今まで背後に控えていた夏組が「がんばれ、てんま~!」「天馬くん、全部見つけてね!」とエールを送る。どうやら本日の趣向は、天馬以外知っているらしい。
「ヒントは春組の六人がそれぞれ持ってるから、わからなかったら聞いてくれ」
「オー、RPGの村人役ネ!」
「村人Cにぴったり」
綴とシトロンの言葉に幸が答えて、綴が笑みを浮かべる。苦笑にも似たくすぐったそうな笑みは、懐かしい呼び名をされたからだろう。幸も何だか楽し気だった。
「テンマ、全部見つけられないと豪華賞品がもらえないヨ! バキバキ頑張るネ!」
「バリバリな……っていうかシトロンさん、テレビ出てる時は日本語ほとんど間違えないでしょうが」
「ツヅルがいるとスッカリしてしまうネ!」
「ウッカリ!」
シトロンと綴が相変わらずの漫才を繰り広げていると、唇に笑みを刻んだ千景が言う。
「ちなみに、豪華賞品は一成が用意してるよ。期待してもいいんじゃないかな」
「ちょ、チカちょん! それは言わないでって言ったじゃん!」
珍しく慌てたような顔で一成が叫ぶ。
思わず視線を向けると、バツが悪そうな一成と目が合った。どうやら一成は、自分が賞品を用意したことを知られたくなかったらしい。
「だって絶対、オレだけ用意してるプレゼント多いじゃん……」
他の人ももちろんプレゼントは用意している。ただ、一成は普通のプレゼントも複数用意しているので、加えて賞品までとなれば一人でどれだけ大量に用意したのかバレてしまうので嫌がっていたらしい。
天馬はしょげ返った様子の一成に、思わず笑った。
思いを込めたプレゼントをたくさん用意したい、というのは一成の気持ちの現れだ。だけれど同時に、その気持ちが相手の負担にならないかと考える。
重すぎることなく、軽やかに。気づかれないよう、そっとやさしく降り注ぐように。そういう風に心を向けるのが、三好一成なのだと天馬は知っている。
その重さもオレなら受け止められるのだと、いい加減観念すればいいのに、と思いながら天馬は口を開く。
「絶対全部見つけてやるからな」
きっぱり宣言すると、九門が「さすが天馬さん!」と手を叩く。それから、幸が「ヒマワリはこっち」と言って、春組から受け取ったヒマワリを手に持っていたカゴに入れる。
幸と椋が持つプラスチック製のカゴは、生花の状態を保つために水が入っているようだった。
天馬の両手が空いたことを確認した咲也は、ストップウォッチを取り出すとよく通る声で言った。
「制限時間は30分だよ。それじゃあ、スタート!」
咲也の言葉を合図にして、季節外れのエッグハントがスタートする。