終演までは、どうかワルツを。 09話


<from AUTUMN TROUPE>


 無事、制限時間内に卵を三つ見つけた。
 最後の一つは中々見つからなかったし、ヒント担当の真澄が「あとにして」「忙しい」と中々ヒントをもらえなかったので、本当にギリギリになってしまったけれど、最終的に見つかったので良しとする。
 それじゃあ次は秋組だね、という咲也の言葉に見送られ、天馬たち夏組一行は談話室を出た。
 当然のようにアイマスク着用だったのは謎だけれど、ここで抵抗しても意味はないと悟っていたので、素直に装着して手を引かれていく。
 着いた先は第一レッスン室だった。ここにもサンカクの飾りやヒマワリモチーフの装飾がほどこされていてパーティー演出に余念がない。
 中にいたのは、咲也の言葉通り秋組のメンバーだった。

「天馬、誕生日おめでとな」

 天馬の前に真っ直ぐに進み出て言ったのは万里だった。
 元々、人を惹きつける空気を持っている人間だった。それが今では洗練された空気に磨きがかかり、佇まいで人を振り向かせる力を持っていた。

「ヒマワリってのも天馬らしいよな。どこにいてもその姿がハッキリわかる。遠くからでもすぐに見つけ出せる。華があるって意味が天馬見てるとよくわかる。――まあ、オレも負けねえけど?」

 言いながら、片手でヒマワリを向けてくる。天馬はそれをしっかりと握り、不敵に笑う。

「ありがとう、万里さん。オレも、万里さんには負けない」

 万里は数多くの舞台に出演してその実力は誰もが認めているし、最近では演出家としても頭角を現している。多方面で活躍をしている万里の姿は、天馬にとって刺激にもなっている。

「天チャン! 誕生日おめでとーッス!」

 突撃するように飛び出したのは太一だった。
 両手でずいっとヒマワリを差し出して、「この前のドラマ良かったッス! 最後、泣き顔全然出てないのに、メチャメチャ感情が伝わってきて泣いちゃったッスよ~!」とまくし立てる。

「ありがとな。太一の――あの、戦隊モノも見てるぞ。脚本毎回面白くて感心してるし、あれは太一じゃなきゃできない役だ」

 ヒマワリを受け取りながらそう言うと、太一は照れくさそうに笑った。
 太一は舞台で着実に実績を積みながら、映像作品にも出演している。
 中でも、現在は日曜朝の戦隊ものシリーズで、主人公側に拾われる敵役を演じていた。基本的にコミカルだが、主人公たちと戦いたくないと葛藤するシーンは視聴者の胸を打ったと評判だ。

「――天馬。誕生日おめでとう」

 太一の後ろから現れたのは十座だった。真面目な顔でヒマワリを天馬へ向けるので、天馬も真っ直ぐと十座を見据えて花を受け取る。

「舞台も見に来てくれて感謝してる。映画のアドバイスも助かった」
「十座さんならできると思ったから言ったまでだし、実際にちゃんと形にしたのは十座さんだろ」

 深々と頭を下げられるので、天馬はそう答える。
 十座は舞台を中心に活動しているが、先日とある映画に出演した。その際、相談をされたのが天馬だった。十座は天馬の意見を自分なりに咀嚼して身につけ撮影に挑み、迫力あるシーンを演じ切ったのだ。

「天馬、誕生日おめでとう。時間があったら、夕飯食べにきてくれ」

 おだやかなやかな笑顔で言うのは臣だ。両手で渡されるヒマワリを受け取りながら、天馬はうなずく。

「臣さんの写真集見てから、臣さんの料理が食べたくなってた。だから今日は、楽しみにしてたんだ」

 臣はカメラマンとして活躍しながら舞台に立っている。臣の趣味が料理という点から、料理をテーマにした写真集(もちろん臣が作った料理)を出版しており、天馬は当然入手していた。
 それ以来、懐かしい臣の料理が食べたくて仕方なかったのだ。料理ドラマ出演の話もあるらしいので、そんなことになったらそれこそ毎週寮に通う必要がある。

「天馬さん、誕生日おめでと。――スキンケアは怠ってないみたいだな」

 落ち着いた口調の莇はそう言ってヒマワリを手渡すと、まじまじ天馬の顔を見つめる。どうやら莇チェックは合格だったらしい。
 莇がいるというわけで、いつもより重点的にケアを行ったのが功を奏したようだ。
 莇はメイクの専門学校へ通ったあと、本格的にメイクアップアーティストとしての仕事を始めた。
 しばらくはそちら中心の生活をしていたが、舞台から降りたつもりはないらしく、じょじょに役者の仕事を再開させている。

「皇、誕生日おめでとう。お前もずいぶん、いい芝居をするようになったな」

 どこかしみじみとした口調で、左京が言った。思わず背筋を正してしまうのは、MANKAI寮にいた頃の記憶からだろうか。
 左京はいつでも、MANKAI寮で背中を守ってくれている人だった。厳しい人ではあったけれど、成果はきちんと認めてくれる。そんな左京に「いい芝居をする」と言われるのは、面映ゆくもあり喜びでもあった。

「まだ甘さが残る場面もあるが、最近じゃリカバリーの方法も多彩になってきたな。逆にそれがいい味になってるところがあっておもしれえ。まだまだ俺も勉強し甲斐がある」

 言いながら、ヒマワリを天馬の胸に置いた。それを受け取る天馬は、左京さんは変わらないな、と思う。
 左京はMANKAIカンパニーの経営など裏方方面に尽力しつつも、舞台に立ち続けている。演技は円熟と凄みを増していき、役者・古市左京として特別な地位を築いている。
 それでも、左京は決して勉強を怠らない。昔から変わらず、貪欲に何もかもを取り込もうとしているのだ。そういう大人が身近にいることはこの上もない幸運なのだと、天馬はよく知っている。

「――っし。それじゃ、そろそろ始めるか」

 全員がヒマワリを渡し終えたことを確認した万里がそう言って、ポケットから細長い布を二本取り出した。赤と白のそれは、どうやらハチマキらしい。
 今度は一体何が始まるのか、と思う天馬だけれど何となく予感はしていた。第一レッスン室に入った時から、薄々想像はついていたのだ。秋組がなぜか全員稽古着の時点で。

「ってわけで、秋組vs.皇天馬、三番勝負な。このハチマキを取ったほうが勝ちっつールールで、基本は接近戦だ。飛び道具の使用と顔・腹部への攻撃は禁止な」
「待て万里さん。オレは何も説明受けてない!」

 いきなり秋組を相手に戦えと言われても困る、という気持ちで言うと答えたのは背後の夏組である。
 夏組は基本的に、後ろに控えて天馬と各組のやり取りは静観しているのだが(写真は撮る)、必要とあらば口を開く仕様らしい。

「説明も何も、そのままでしょ。秋組とポンコツが戦うだけ」
「だけって内容じゃないだろ」
「はい、てんまの着替え~」

 三角が差し出したのは、天馬の稽古着だった。どこから持って来たのかと思ったけれど、正直夏組にとって天馬の自宅は勝手知った場所なので必要に応じて回収してきたのだろう。

「えっと、代表の一人がハチマキつけて戦うんだよ!」
「クジ引くって言ってなかったか」

 九門の説明に、莇がフォローらしき言葉を入れる。しかし、まったく全容がわからない。天馬の困惑を察したのか、口を開いたのは椋だった。

「えっと、秋組と夏組それぞれ代表者を二人選んでメンバーを決めるんだ。このうちの一人がハチマキをして、そのハチマキを取ったほうが勝ちだよ。あ、天馬くんは誕生日だから全部参加できることになってて、夏組は三人になっちゃうんだけど……」

 秋組2人vs.夏組2人+天馬、という構図になるらしい、と天馬は理解する。人数だけ見ると秋組に不利な条件だが、天馬を始めこの場にいた全員はそう思っていなかった。
 むしろ、アクションの秋組の系譜を引き継いで、今日まで身体能力をフル活用してきたメンバーに、一人プラスしたくらいで勝てるかどうかは怪しい。
 案の定、秋組は異論を唱えるつもりはないようだし、そもそも事前にこのルールは決まっていたようなので、人数など関係ないということなのだろう。

「それで、選ぶメンバーはクジ引きにする予定で、カズくんが作ってきてくれたんだけど――……さっき、呼ばれて出てっちゃったんだ」

 支配人がひょっこり顔を出すと「ちょっといいですか」と言って一成を連れて行ったらしい。その時にクジも一緒に持っていったので、ここにはクジがなかった。

「――今回の件を取りまとめてるのは三好だからな。夏組主体だが、総指揮はあいつだろう」

 左京がつぶやけば、臣がしみじみとした調子で言葉を引き取る。

「そうですね。全体の進行はもちろん、それぞれのタイムスケジュールも把握して手助けしてくれますし」
「まあ、スケジュール管理はやたらと上手いから」

 幸が言う通り、一成は昔から色々な仕事を同時進行させるのが得意だった。パズルのようにスケジュールを組み込んでいくのが上手いのだ。

「だよね! オレたちも色々やってるけど、やっぱりカズさんが一番頑張ってると思う!」

 九門が強くうなずく。曰く、会場の設営からメニュー考案に食材の調達、各組主催のレクリエーション打ち合わせ、当日の詳細なタイムスケジュール提出など、あらゆる場面に一成が関わっているらしい。
 疑問があれば一成に尋ねるのが一番確実、というのが全員の見解だった。

「クジもめちゃくちゃ凝ってるッスよ! 名前を図案化したデザインになってて、ちょっとだけ見せてもらったけど格好良かったッス!」

 興奮気味に太一が言う。今回の秋組三番勝負で使うためのクジは案の定一成のお手製だったが、ただ名前を書いた紙を空き箱に入れたものではない。
 カズナリミヨシ渾身のデザインにより作成された、ネームタグとでも呼ぶべき仕上がりになっているらしい。
 そんなことをやっている時間はあるのだろうか、と天馬は少し心配になる。無理をしているんじゃないだろうな、と思っていると面白そうに万里が言った。

「ま、一成は天馬のことすげー好きだしな」

 天馬の誕生日パーティーともなれば、それはもう張り切ってしまうのは仕方ないだろう、という意味だということは天馬にも理解できた。
 確かにそうだろう、と思う。一成はプレゼントを贈ったり、誰かのために何かをしたりするのが根本的に好きな人間だ。あまつさえ、夏組の誰かの誕生日だなんて全力で張り切らないわけがない。
 だけれど、たぶん、それだけが理由ではない。
 他の誰でもない自分の誕生日だからだ、と天馬は思う。
 一成にとっての自分の位置を、天馬は正しく理解していた。特別な夏組の、その中での特別な位置に自分がいる。それは決して自惚れではないとわかっていたので。
 天馬は簡潔に、万里へ「知ってる」と答えた。